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従前は、配偶者へ自宅等の居住用不動産を贈与しても、相続において配偶者の受け取る相続分で調整するためには相続開始後における配偶者の生活基盤の安定に寄与しませんでした。これは特別受益の持戻し制度(以下「持戻し」とします)によるものです。この持戻しとは、相続人が生前贈与を受けた場合、相続財産を被相続人死亡時の財産だけでなく贈与した財産を加えるというものです。さらに相続分の計算においては、以下の計算式で算出します。
持戻し後の財産×法定相続分-贈与を受けた額
もっとわかりやすく説明するために、以下の具体例で説明します。
(具体例)
被相続人死亡時の財産 預金 2000万円
相続人→妻(法定相続分 2分の1)
長男(法定相続分 4分の1)
長女(法定相続分 4分の1)
被相続人が生前に贈与した自宅の額 金2000万円
妻の相続分は2分の1ですので、単純に計算すると預金のうちは1000万は相続できそうに思われます。しかし実際には持戻しが適用されるためこのようにはなりませんでした。持ち戻しが入ると、(2000万(相続時財産)+2000万(贈与を受けた自宅)×1/2-2000万=0となり、相続時においては妻は一切預金を相続できなくなります。もうおわかりと思いますが、この持戻し制度によって、いくら生前贈与を受けても、被相続人の死後における配偶者の生活基盤の安定は図られませんでした。この持ち戻しを避けるためには、別途持ち戻しを免除する旨の意思表示をしなければなりませんでした。
しかし、実際にそのような意思表示を明示的にすることは少なく、長年苦労をともにした配偶者に自宅を贈与しても、残された配偶者の生計の維持に困難が生じるというような弊害が生じていました。
そこでこのような弊害をなくすために、一定の婚姻期間以上の夫婦間における居住用不動産の贈与については、贈与者が持戻しを免除する意思をもって贈与したものと推定することになりました。
なおこの制度の施行日は2019年7月1日ですので、それ以前(2019年6月30日まで)に贈与を受けたものについては残念ながら、適用はありません。なお具体的な要件は以下のとおりです。
(要件)
①婚姻期間が20年以上の夫婦であること
→事実婚ではなく、法律婚であることが必要だと思われます
→離婚と再婚を繰り返していた場合の婚姻期間の計算については
今後の解釈にゆだねられますが、税法上の取り扱いでは離婚
していた期間の除くという事になっていますので、これが今後
の一つのめやすとなると思われます。
②贈与の対象が居住用不動産であること
→テナントビル・アパート・マンション等の収益物件の場合は
対象外です。
③贈与時又は贈与時の近い将来に配偶者が贈与を受けた不動産に居住すること
→この要件は、明文の規定はありませんが一般論として贈与をした時点
で贈与者が持戻しの意思表示をしたと推定されることから、この要件も
必要となる可能性が高いです。
この制度が適用されれば、あえて相続時において配偶者居住権を設定する必要はありません。夫婦間で居住用不動産を贈与する件数も増加すると思われます。夫婦間で自宅を配偶者へ贈与することをご検討の方は当事務所に、お気軽にお問い合わせください。
一定の婚姻期間以上の夫婦間における居住用不動産の贈与については、贈与者が持戻しを免除する意思をもって贈与したものと推定することになったことは、「メリット①持戻し免除~相続できる財産が減りません」の記事で書いた通りです。
上記の記事でも書いた通り、あくまでも持ち戻しを免除するする意思を持って贈与したものと「推定する」と規定さ入れている通り、反証があれば覆ります。しかし、現実には反証することは困難といあったことをえます。覆すためには
〇贈与時に持ち戻しを適用する意思があった
等を証明しなければなりません。しかし、実際に贈与者は、将来残される配偶者の事を思って
贈与することが一般的ですので、持ち戻しの適用を認容するような行動をとることは考えにくいと言えます。従って、推定を覆すことは事実上困難といえます。
(個別具体的な事案につきまして、必ず事前に税理士や税務署にご確認下さい。当事務所提携
の税理士をご紹介することも可能です)
配偶者に、居住用不動産又は居住用不動産を取得するための金銭を贈与した場合、一定の要件を満たせば最高2,110万まで控除(通常は110万円)することができます。では、どのような 場合にこの特例が適用されるのでしょうか。具体的な要件について紹介いたします。
(要件)
①夫婦の婚姻期間が20年を経過した後に行われる贈与であること
→法律上の婚姻期間が20年であることが必要です。従って
事実婚のご夫婦や、事実婚の期間を含めると20年経過している
が法律婚の期間は20年経過していないご夫婦の場合は
適用されません。
→結婚してから現在までの間に離婚期間がある場合は、離婚期間は婚姻
期間に含みません。この場合の計算式は以下のようになります。
最初の婚姻期間+再婚後の婚姻期間≧20年
②贈与される不動産が居住用不動産又は居住用不動産を取得するための金銭であること
→収益不動産(アパート)や贈与した金銭で収益不動産を取得した場合は適用
されません。
→居住用不動産(建物)の敷地となっている土地のみの贈与も含みます
③同じ配偶者から、過去に贈与を受け配偶医者控除を適用したことがないこと
④贈与を受けた年の翌年3月15日までに、贈与により取得した居住用不動産又は贈与を受けた金銭
で取得した 居住用不動産に、贈与を受けた者が現実に住んでおり、その後も引き続き住む見込
みであること
→贈与された不動産に住まない又は、直ぐに売却する予定がある、既に住んでいる場合は
直ぐに引っ越す予定がある等の場合は適用されません。
⑤適用を受けるための申告をすること
→無申告の状態ですと、控除を受けられませんのでご注意ください。